「ミクサーアゲイン」あとがき
人間、それもエゴイスティックな人物を書こうと思いました。
サファリは自分を縛ってきた社会というものを憎み、それに従うばかりの大人に苛立っています。大人なら自分の人生をコントロールできるのではないかという幼い幻想です。
しかし、現実はそうはいきません。VRChatでは学校や仕事が多忙になりログインしなくなること、やめてしまうことは珍しくありません。環境の変化は誰にでも起こりえることで、どうしようもないのです。そんなとき我々は別れを惜しみながら、相手の人生に幸あれと願うことしかできません。
サファリには、限界までそれに抗ってほしいと思いました。
彼は我が侭で、独善的で、盲目な、押しつけがましい人物です。相手の本心を暴こうとし、それに向き合えと迫ります。
そんな諦めの悪い人間が1人くらいいてもいいのではないかと考えました。
彼は寂しかった。現実を受け入れられなかった。カレンがこの世界を去るのを止められなかった。このままでは後悔する、と思ったとき、彼が取った手段は相手に呪いをかけることでした。
生きろという呪いです。ずっとここで待っているという忘れがたい一方的な約束です。
暴力的なまでに無垢で真摯な愛の告白です。
いっしょに生きよう、と言えなかった。VRChatは人生の通過点、あるいは交差点です。ここで私たちはリアルでは会えないようなひとと交わり時間を共有しますが、それは永遠ではありません。「インターネット上の人間関係なんてそんなもの」です。
だからあなたに生きてほしいと言った。あなたがいるから生きていられると言った。これ以上相手の人生を縛る言葉があるでしょうか。けれどもこれほど強い言葉でなければ、カレンのよすがになれなかったのではないかと思います。
死んでしまいたいというひとに言えること、それは生きろということだけです。
あなたにこのメッセージが届きますように。
麻島葵
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